この年の夏合宿は雨が多く、外でのフォーメーションのチェックは雨の止み間を狙って僅かな時間に行なうなど、なかなかの工夫を迫られる中で続いている。

 この日は来月の石狩の夏フェスでのパフォーマンスに向けた仕上げの練習が行われていた。

「しょこたんとゆーちゃん、少し位置ズレたよー!」

 珍しく晴れたので、朝からブッ通しで練習が行われていた。

 そのとき。

 バタッと音がした。

 見ると、薫が倒れていた。

「…薫?!」

 全員が馳せ寄って来た。

「…熱中症やな」

 日陰に移動させ、この日洗濯物を取りに来ていた茉莉江が薫に付きっきりで様子を見た。

 休憩に入ると、とりわけ眩しい夏空と入道雲が目に飛び込んできた。

「ね、ダーリャはなんでアイドル部に来たの?」

 好奇心の強い翔子が訊いた。

「一生に一度しか出来ないかも知れないから」

 思ったより重厚な回答に、

「うちなんか、クラリネット辞めたくてコッチ来ただけやもんな」

 翔子の関西弁は清正のそれとは少し違った。

「先生みたいなええトコの子やないもん」

 厳しい練習でも、まだ翔子にすればクラリネットよりは楽しかったらしい。

「でもしょこたんがいるから、私も続けていられるんだよね」

 それはだりあの偽らざる気持ちであったらしい。