会見の喧騒がまだ残る中、深夜になって琴似の清正と茉莉江の新居を訪ねてきた者があった。
茉莉江が誰何すると、
「茉莉江先輩、おひさしぶりです」
驚くべきことに翠であった。
「顔を出せるような立場じゃないのは分かってるんだけど…」
どうやらあちこち訊き回って探し当てたようである。
茉莉江は招じ入れた。
ちょうど清正がトイレから出てきたタイミングで、
「…瀬良も難儀やったな」
清正は怒らない。
しかしそれが翠の涙腺を崩壊させた。
しばらく泣きじゃくっていたが、茉莉江が促してリビングに上げ、コーヒーが苦手な翠のために清正は手ずから点前を立て、抹茶を出した。
「みな穂ちゃんの会見はテレビで見た」
訥々と語り始めた翠は、あの写真の真相を話し始めた。
「あの俳優さん、実は一緒に舞台で仕事をするスケジュールだったのね。それで最初は端役だったんだけど」
キーパーソンとなる役の女優が交通事故で怪我をしてしまい、代役に翠の名が上がったのだという。
「でも、それには条件があるって」
それで枕営業のために密会した、と言うのである。
茉莉江も清正も言葉を失った。
「私…雪穂やすみれみたいに売れなきゃって焦ってたのかも」
翠の家は母子家庭で、家計が厳しい。
話を聞いていた茉莉江は、沈痛な面持ちをした。