その『ふりさけみれば』の実写化が決まって、ロケーションが始まった初日に藤子は、学校の近所という設定の、出町柳の鴨川デルタにある葵橋へ赴いた。
「原作の長内藤子先生、到着でーす!」
スタッフに促されるまま監督や脚本家と挨拶をしていると、
「…藤子ちゃん?」
台本を手にあらわれたのは雪穂である。
「久しぶりー!」
しばし再会を喜んだ。
「雪穂は何の役?」
「ヒロインの平岸讃良です」
雪穂が讃良かぁ、と藤子は感慨深げに言ってから、
「でも雪穂なら大丈夫。きっと上手く出来るよ」
「…藤子ちゃん、変わらないなぁ」
「?」
「私がアイドル部に入ったばっかりで何にも出来なかった頃、同じようなセリフで励ましてくれたっけ」
二人は思い出したのか、同じように笑い出した。