萌々香は実際のところ、チョコレートは食べない。
「チョコレートよりクッキー派です」
という萌々香はお菓子作りが趣味らしく、部室へクッキーを大量に焼いて持ってきたり、マドレーヌを焼いて職員室で配ったりする。
「あれは賄賂や」
口の悪い翔子なんぞは毒づくのだが、そうすると萌々香は毒キノコ型のクッキーを焼いて、
「しょこたん先輩、どうぞ」
と、子供じみた可愛らしい仕返しをする。
これには翔子も参ったらしく、
「あれじゃ迂闊に毒も吐かれへんわ」
とぼやいた。
萌々香の進路は決まっていて、
「歌って踊れるパティシエールになりたい」
その日のために、とパティシエール用の調理服にあちこちフルーツ柄を縫い入れ、可愛らしくしている。
「うちの部にはいなかったタイプだなあ」
そう話す、たまに来る澪は、来年度から母校の教師となることが内定している。
その澪に言わせると、
「生まれながらのアイドル」
まさにアイドル部に入るために生を受けたような、たまにそうした人物が出てくる場合があるのだという。
「すみれや雪穂とも、何か違うんだよね」
澪は萌々香に、何か今までのメンバーにはない何かを感じてはいたらしい。