数日して萌々香が昼休みにチマチマ刺繍を縫っていると、
「萌々香、お願いしていい?」
菜穂子が寄って来た。
「ん?」
「私の衣装に刺繍、入れてもらっていい?」
「いいよ。何がいい?」
「揚羽蝶って頼んで大丈夫?」
「どこに入れるの? 色とサイズは?」
すると菜穂子は手にしていた紙袋から衣装に使うグレーのスカートを取り出し、
「裾に、ちらっと見える感じでお願いしていい?」
「分かった。急ぐ?」
「急がないけど、それ年末のお台場の音楽番組の衣装だから、十一月末までかな」
「分かったよー」
早速小型の枠を仮当てし、
「ここに来るけどいい?」
「了解」
すると萌々香は裁縫箱の下から銀糸を取り出して当てがい、
「この色は?」
「任せる」
決まるや早速、萌々香は下書きなしで縫い始め、帰り際のホームルームの頃には仕上がっていたのである。
「菜穂子ちゃん、出来たよ」
見るとスカートの裾、ちょうど左の腿の辺りに来る近辺に、銀糸で二頭の揚羽蝶が、つがいで飛ぶ姿が縫い取られていたのである。
「わぁ…めっちゃオシャレ!」
下描きなしとは思えない出来栄えである。