香織の指導は、数日間みっちりとおこなわれた。
「薫は飲み込み早いよね」
ダンスと同じくリズムやテンポでどうやら掴んだらしく、大筆を操れるようになってきた。
一方のみな穂は、
「これ、なかなか難しいね…」
コツを掴み切れず、身体がどうしてもふらついてしまうのである。
「うーん」
香織はしばし考えてから、
「薫に書いてもらうしかないか…みな穂部長、どうします?」
香織は決断を促した。
みな穂は迷うことなく、
「私も薫ちゃんが書いたほうがいいと思う」
と息を切らしながら答えた。
「いや、部長に墨バケツ持たせるのはどうかと」
薫はみな穂に補欠めいたことをさせるのが、どうも好ましく感じなかった。
「私は気にしないよ。だって実際、薫ちゃんのほうが字は綺麗だし見栄えはするし。私はほら、もともとくじ引きで部長になっただけだから、実力で部長になった訳ではないし」
みな穂にはそうした少しネガティブな側面がある。
「でも…」
「あのね薫ちゃん、うちらアイドル部は実力主義で、たまたま私はくじ運で部長にいるだけだから、気にすることないって」
「うーん」
薫は要領を得ない顔をした。
「それに私、サブの仕事は嫌いじゃないしさ」
みな穂の言葉にようやく承知したような顔をしたが、
「何だかなぁ…」
薫は申し訳なさそうに眉をひそめた。