夏が始まろうとしている。
期末試験も終わって夏休みの恒例行事であった、祝津での夏合宿に入ると、るなはひかるとひまりの三人で集まる時間が増えた。
三人で日和山の灯台まで登ると、理一郎の話になった。
もともとは姫路生まれだが、普段は関西弁を話さないようにしていること、小学校のときに親が離婚して北海道へ来たこと、関西弁というだけでいじめられ続けていたこと、京都の大学に行って関西へ戻ってみたら違和感だらけだったこと、ひまりを助けたのは以前恋人を助けられなかったことがあったから…などなど。
「だからなのかな、怒らないんだ」
たまに感情出して欲しいときはある、とひまりは言った。
「歳だって確か十五歳だったかな、離れてるから…私が何か言っても喧嘩にさえならない」
さり気なく受け流すのだという。
「でも、アイドル部が恋愛厳禁なのを知ってたから、私が理一郎に好きですって言ったら『アイドルがそれ言って大丈夫か?』って確認してきた」
それで前にひかるに語り聞かせたように理一郎に言うと、
「君の性格からして難題だろうって苦笑いしたけど、私のワガママを聞いてくれた」
ダンスレッスンの鬼とまで呼ばれるひまりを、上手に包容力で包んでいる様子が、手に取るようにありありと分かる。