そうして配役が決まり、読み合わせや立ち稽古が始まった頃、練習場に選んでいた駐車場で、ひまりは耳に覚えのあるメロディを聴いた。

 最初よく音を拾えなかったが、

「…これって」

 やがてそれが口笛で、しかも理一郎が吹くそれと同じ旋律であることに気がついた。

 振り向くと、清正が掃除をしながら口笛を鳴らしている。

「先生…その曲は?」

「あぁ、これは『(こう)()(もと)に』」

 清正いわく、そもそもは清正が通っていた大学の応援歌の一つであったらしいが、人気があるため今でも同窓会や集まりで歌われるものであるらしかった。

「紺野、知っとるんか?」

「…いや、いいメロディだなって」

「さよか」

 清正は掃除を終えると職員室へ戻った。

 すぐにスマートフォンで『黌旗の下に』を調べてみると、

鴨城(おうじょう、)大学の第三応援歌」

 とヒットした。

 つまり理一郎は、清正の後輩にあたるらしい。

 ひまりは、少しだけ胸がさざめいた。