ひまりは日曜日の夜、理一郎とタンデムでツーリングを楽しむ。
毎週ではなかったが、夜風に身を預け、少し武張った男らしい理一郎の腰を抱いて、髪をなびかせ疾駆する感覚は、普段では到底味わい難いものであったらしく、
「ね、こうやってくっついてていい?」
「ひまりが良いなら良いよ」
理一郎はヘルメットの中で口笛を吹きながらスロットルを繰ってゆく。
ひまりは誰の何の曲かは分からなかったが、いつも理一郎が吹く口笛を伴に、海岸や星の美しい展望台への瞬間を楽しんでいた。
誰にも明かせない秘事であり、しかし時には止められない衝動に駆られそうにもなり、この不安定でアンバランスな気持ちが、アイドル部として活動するには障壁であることを、ひまりは自覚していたはずなのだが、
「でも…好きなものは好き」
つぶやきは風にかき消された。
自身でも、持て余していたのかも分からない。