雨の中、急いで海岸に向かうと、ぼーっと立っているカイの姿が見えた。

消え入りそうな、孤独な背中。

見ようによっては10代後半から30代くらいに見える、年齢不詳でどこにでもいそうな普通の顔立ちと髪型。

なのに、不意に見せる寂しげな横顔のあまりの美しさに、ドキッとさせられたりもする。

私が近づいていくと、少し不機嫌そうに唇を尖らせた。

「遅い」

「それ最近の口癖?毎回言ってる」

「だって毎回遅いから」

「どうかしたの?こんな時間に上がってくるなんて珍しいじゃん」

「ちょっと頼みがある」

「何?あんたが私に頼みとか怖いんだけど」

「助けてやってほしいんだ」

カイはそう言って後ろをちらっと見た。

その視線の方向を見ると、小さな男の子が立っていた。

「…隠し子?」

「んなわけあるか。迷子なんだって」

「君、名前は?」

小さな男の子は、カイの後ろからちょっとだけ顔を出して答えた。

「…けんた」

「何才?」

「…ごさい」

「今日は、誰とここに来たの?」

「…まま」

そこで、ふと思った。

「カイがけんたくんのお母さん探してあげればいいじゃん。何で私に頼むの?」

「俺砂浜より外出れないし、見えるのもこの街の中だけだし」

「ん?ちょっと待って」

私はけんたくんをその場に座らせて、少し離れたところにカイを連れ出した。

「けんたくんのお母さん、この街の外に出てるってこと?けんたくんを置いて?」

「そういうこと」

「…これ、けんたくんのお母さんを探して帰らせても大丈夫なのかな?だってまた何されるかわからないしどこに置いてかれるかわからないってことでしょ?」

「それは…お前が考えてどうにかしてくれ」

「いやいやいや、何それ、無理じゃね?」

「俺は帰る。これ以上雨降らせ続けたらあの子が風邪引く」

「いや、ちょっと待ってって…」

カイは、私の返事も聞かずにすっと海のほうへ消えていった。

「どうしよう…どこに相談すればいいの…」

とりあえず警察か、と思って110番通報しようとしたそのとき、背後からどさっという不穏な音がした。

音のした方を振り返ると、顔色が真っ青になったけんたくんが倒れていた。