「沙織ちゃん、最近元気ないね」

店長から声を掛けられて、私ははっとした。

「す、すみません、ちゃんと仕事します」

「いや、そんな頑張らなくていいよ。ただ心配だっただけだから」

あれから1週間が過ぎた。

龍ちゃんとは会ってない。

連絡も取ってない。

でも向こうからも連絡してこないということは、突然連絡を絶たれる理由に心当たりがあるということなんだろう。

それか、連絡を絶たれても別に気にならない、その程度の存在だったのか。

「おーい、沙織ちゃん?」

「あ、いや、大丈夫です、あ、いらっしゃいませ〜」

くそっ、これ以上考えても無駄だ。仕事仕事。

今いらっしゃった女性のテーブルに水を運ぶ。

買い物帰りという感じの荷物を抱えた女性は、慌てて店に入ってきたようで、はぁ、とため息をついた。

「いやぁ、急に降ってきちゃって」

窓の外を見ると、青空から大粒の雨が降っている。

「本当だ、降ってきましたね」

「きっとあやかしの仕業だろうからすぐ止むだろうし、少しここで雨宿りしてこうかしら」

「ごゆっくりどうぞ。ご注文お決まりになられましたらお呼びください」

私はメニューを置いて、厨房の中へ戻った。

あやかしの仕業、か。

でも、私がバイト中の時間に浜に上がってくるなんて、今までなかった。

いつもは、私が家か浜辺にいるときに狙って上がってくる。

カイの住んでいる海の向こうのほうからだと、この街で誰がどこにいるのか、よく見えるらしい。

こんな時間に浜に上がってくるなんて、何かあったんだろうか。

気になるけど、バイトはあと1時間ある。

「うううん…どうしよう…」

「沙織ちゃん本当に大丈夫?」

唸ってる私を見かねた店長が声を掛けてきた。

「大丈夫です!」

「今日はもう帰って休んだら?なんか様子がおかしいって常連さん達も心配してるよ?」

常連さん達がいつも座っている奥のテーブルをちらっと見ると、無理するなよ、と優しく声を掛けられた。

「…すみません、帰らせてもらいます」

「そうしな。また明日、元気な顔見せてね」

「はい。お先に失礼します」