*
カイが言っていたとおり、私は朝7時に龍ちゃんの家のそばに行った。
もし、もし仮にカイの話が本当なら、私は今から龍ちゃんの家から女の人が出てくるところを目撃することになるのだろう。
と思っていたら、背後から龍ちゃんらしき人の声が聞こえてきた。
どういうこと…?
訳がわからず、私はとっさに近くの家の影に隠れた。
私が今来た道のほうから、龍ちゃんと女の人が手を繋いで歩いてくるのが見える。
つまり、女の人の家から朝帰りってわけか。
実家じゃやることもやれないだろうしな。
って何考えてんだ私。
「え?ほんと?よかった〜いい部屋見つかって」
「どうする?子ども二人くらい欲しい?」
「え〜三人くらいいたほうが楽しいよ〜」
ああ。
聞きたくなくても聞こえてくる会話の内容がえぐい。
そうか。これプラス人妻か。
なんだか妙に納得してしまった。
いつも私が見ていた龍ちゃんと違いすぎて。
今の龍ちゃんなら二股くらい余裕な気がする。
二人は別れ際に名残惜しそうにキスして、龍ちゃんは家の中へ、彼女はもと来た道を帰っていった。
彼女が完全に見えなくなってから、私も駅の方へ戻ることにした。
*
《沙織ちゃん今どこ?》
《今日13時にいつものカフェって約束じゃなかったっけ?》
《沙織ちゃん大丈夫?何かあった?》
龍ちゃんから立て続けに来るメッセージ。
今日は午前しか授業がなかった私は、自分の部屋のベッドの上で、ぼーっとメッセージを見ている。
龍ちゃん、本気で心配してくれてるのかな。
返事くらいするべきなのかな。
でも、今朝のあれが脳裏にちらついて、普通に返事なんてできそうもない。
メッセージを閉じて、スマホを適当に放り投げたとき、お母さんが部屋に入ってきた。
「沙織、お昼食べてないんじゃない?具合悪いの?」
「んー、ちょっとねー」
「あら、雨降ってきたわね。あやかしの仕業かしら」
洗濯物入れなきゃ、と言って、バタバタとお母さんが出ていった。
私の部屋の窓からは、海がよく見える。
海の荒れ方を見れば、この雨がカイが降らせた雨なのかどうか、すぐわかる。
カイが来るときは、海の向こうから徐々に、局地的な通り雨を伴ってくる。
いつもは比較的穏やかな海が、狂ったように波しぶきを上げながら揺れる。
人々はこれを『あやかしの仕業』という。
あやかしの正体は知らないくせに。
今日の雨も、いわゆる『あやかしの仕業』。
つまり、カイが浜辺に上がってきてる。
カイは私を呼んでいる。
「でもなぁ…」
なんかムカつく。
馬鹿みたいに龍ちゃんを信じてた私を嘲笑ってるんだろう。
ほれみろ俺の言ったとおりだったろ、っていう声が今にも聞こえてきそう。
「今日は会いたくない…」
私は枕に顔をうずめた。
それから夜が更けるまでの数時間もの間、雨は降り続けていた。
カイが言っていたとおり、私は朝7時に龍ちゃんの家のそばに行った。
もし、もし仮にカイの話が本当なら、私は今から龍ちゃんの家から女の人が出てくるところを目撃することになるのだろう。
と思っていたら、背後から龍ちゃんらしき人の声が聞こえてきた。
どういうこと…?
訳がわからず、私はとっさに近くの家の影に隠れた。
私が今来た道のほうから、龍ちゃんと女の人が手を繋いで歩いてくるのが見える。
つまり、女の人の家から朝帰りってわけか。
実家じゃやることもやれないだろうしな。
って何考えてんだ私。
「え?ほんと?よかった〜いい部屋見つかって」
「どうする?子ども二人くらい欲しい?」
「え〜三人くらいいたほうが楽しいよ〜」
ああ。
聞きたくなくても聞こえてくる会話の内容がえぐい。
そうか。これプラス人妻か。
なんだか妙に納得してしまった。
いつも私が見ていた龍ちゃんと違いすぎて。
今の龍ちゃんなら二股くらい余裕な気がする。
二人は別れ際に名残惜しそうにキスして、龍ちゃんは家の中へ、彼女はもと来た道を帰っていった。
彼女が完全に見えなくなってから、私も駅の方へ戻ることにした。
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《沙織ちゃん今どこ?》
《今日13時にいつものカフェって約束じゃなかったっけ?》
《沙織ちゃん大丈夫?何かあった?》
龍ちゃんから立て続けに来るメッセージ。
今日は午前しか授業がなかった私は、自分の部屋のベッドの上で、ぼーっとメッセージを見ている。
龍ちゃん、本気で心配してくれてるのかな。
返事くらいするべきなのかな。
でも、今朝のあれが脳裏にちらついて、普通に返事なんてできそうもない。
メッセージを閉じて、スマホを適当に放り投げたとき、お母さんが部屋に入ってきた。
「沙織、お昼食べてないんじゃない?具合悪いの?」
「んー、ちょっとねー」
「あら、雨降ってきたわね。あやかしの仕業かしら」
洗濯物入れなきゃ、と言って、バタバタとお母さんが出ていった。
私の部屋の窓からは、海がよく見える。
海の荒れ方を見れば、この雨がカイが降らせた雨なのかどうか、すぐわかる。
カイが来るときは、海の向こうから徐々に、局地的な通り雨を伴ってくる。
いつもは比較的穏やかな海が、狂ったように波しぶきを上げながら揺れる。
人々はこれを『あやかしの仕業』という。
あやかしの正体は知らないくせに。
今日の雨も、いわゆる『あやかしの仕業』。
つまり、カイが浜辺に上がってきてる。
カイは私を呼んでいる。
「でもなぁ…」
なんかムカつく。
馬鹿みたいに龍ちゃんを信じてた私を嘲笑ってるんだろう。
ほれみろ俺の言ったとおりだったろ、っていう声が今にも聞こえてきそう。
「今日は会いたくない…」
私は枕に顔をうずめた。
それから夜が更けるまでの数時間もの間、雨は降り続けていた。