カイと出会ったのは、5歳のとき。

その日は一日中、近所の友達と遊んでいた。

鬼ごっこをしていたときに、転んで立ち上がれなくなって、砂浜に一人、置いてかれた。

日が沈みかけていた。

夜の海は暗くて怖い。

しかも、雨が降ってきた。

早く帰りたいけど足が痛くて帰れない。

私はとうとう泣き出してしまった。

その時、どこからともなく彼がやってきて、傷の手当てをしてくれたんだ。

「お兄さん、だあれ?」

「お兄さんはお兄さんだよ」

「名前は?」

「名前はないなぁ」

「名前ないの?」

「君の名前は?」

「さおり!」

「じゃあ、さおりちゃん、俺に名前つけてよ」

「えー!いいのー?!」

その頃にはもう、足の痛みなんか忘れて、すっかり元気にはしゃいでいた。

「うーんっとね。あ!じゃあこれにしよう!カイ!」

そう言って、落ちていた貝殻を拾い上げてみせた。

「カイ、か」

「うん!お兄さんの名前は、カイ!」

「いい名前だね」

これが、私とカイの出会いだった。





その後、私はカイに会うために一人で砂浜に行くようになった。

カイは、次の雨の日にやってきた。

そして、自分の正体を教えてくれた。

「俺はね、実は人間じゃないんだ。海に住んでいて、海に雨を降らせて、海を荒れさせてしまう、“あやかし”なんだよ」

「あやかし?」

「うん。あやかし。だからね、俺がここに来るとどうしても雨が降っちゃうんだ」

「そっかぁ」

「それから、俺の姿は沙織にしか見えてないんだ」

「どうして?」

「俺が自分で姿を見せないようにしてるの。ほら、だって俺は雨を降らせる悪い奴だから、みんなに嫌われていじめられちゃうから、ね」

「あたしは好きだよ」

「ん?」

「カイ、優しくて楽しいから好きだよ」

「ありがとう」

でも他の人には嫌われちゃうから、パパやママにも俺のことは言っちゃダメだよ、と言われた。

だから、カイのことは誰にも話してない。

今でも。