「お疲れ様でしたー」

「沙織ちゃんおつかれー」

カフェのバイトが終わったのは、夕方6時過ぎ。

すっかり桜が散ってしまったこの季節には、6時を過ぎてもまだ少し明るい。

私は駅のほうに向かって歩く。

途中、本屋さんに寄ろうと思って道を曲がろうとしたその時、ぽつりぽつりと雨が降り出した。

「まじかよ…絶対アイツじゃん」

私は一人ため息を吐き、折り畳みの傘を広げて駅まで走った。





家の最寄駅で電車を降りると、駅前の道路を渡って海岸沿いを歩く。

さて、アイツはどこにいるのか。

少し小走りで探す。

海水浴場の端のほうに、人影が見えてきた。

シルエットですぐわかる。

アイツだ。

「カイ!」

私が呼びかけると、その人影がこちらを振り向いた。

「遅い」

「あんたさ、そんなに人の邪魔したいわけ?」

「あいつはダメだ」

「なるほど、龍ちゃんがいい人すぎて嫉妬してるんだ」

龍ちゃん、というのは、大学の友達の紹介で知り合った男の子で、さっき行こうとしていた本屋さんの息子だ。

最近は学食で昼ごはんを一緒に食べたり、空きコマに一緒にカフェに行ったりするようになった。

すごく気が合うし、優しくてイケメンだし、付き合えたりしないかなーと淡い期待を抱いているのだが。

カイは、龍ちゃんは絶対にダメだと言ってくる。

「んなわけあるか。ほんとにあいつはやめとけ。痛い目見るぞ」

「そうやって毎回私の邪魔してくるよね。中学のときのユウキくんだって、あんたに邪魔されてるうちにミカちゃんに取られたし。高校のときの松本先輩も転校して行っちゃうし。だから今度こそ後悔したくないの!」

「後悔したくないなら俺の言うこと聞けって。こっちは沙織のためを思って言ってるんだよ」

「それなら、ちゃんと理由を言って。何で龍ちゃんはダメなの?」

「言ったら傷つくだろ」

「別に何聞いても傷つかないけど?私を納得させられるような理由があるなら言ってみなさいよ」

「…あいつ彼女いるぞ」

「…え、いや、今はいないって本人が言ってたし…」

「しかも二人。一人は年上の人妻で遊びって感じだけど、もう一人は本命。来年の春には大学中退して結婚して彼女の地元に行くって張り切ってるぞ」

「そ…そんなの、あんたに言われたからってはいそうですかって信じられないし…」

「じゃあ明日の朝7時頃、あいつの家見に行ってみろ。自分の目で確かめればいい」

カイはそれだけ言うと、海のほうにすっと消えていった。

それと同時に雨は上がり、海はさあっと静けさを取り戻した。