「トイレ行ってきなよ。」
「…うん。」

ホームに設置されたベンチに項垂れるように座る彼に、私は声をかける。
小さく返事をするけど、立ち上がる気配はない。

気持ち悪くなるほど飲むって何なの。
これだから酔っぱらいは困るのよ。

動かない宗田くんを置きっぱなしにして、私はブツブツ悪態を付きながら自販機でミネラルウォーターを購入した。
ピザといいミネラルウォーターといい、今日は出費が多い。

ペットボトルのキャップを開けて、ミネラルウォーターを宗田くんへ手渡す。

「ほら、宗田くん。お水買ってきたから飲みなよ。」
「ありがとう。」

素直に受け取ってゴクリと飲む。
その喉仏の動きにドキリとしてしまった私は、たぶん宗田くんの酔いがうつったのだろう。
こんな酔いつぶれて迷惑極まりないのに、何故だかドキドキするなんて、どうかしてる。

「帰れる?」
「大丈夫だよ。」

こんなに不安になる「大丈夫」という言葉は初めてだ。
宗田くんはフラリと立ち上がったかと思うと、一歩踏み出す。

全然まっすぐ歩ける気がしなくて、私は思わず手を出した。

「家どこ?送るよ。」

ちょうど宗田くんちの最寄り駅はこの駅だ。
駅は知っていても家は知らない。

「悪い、仁科。」

宗田くんは力なく笑った。