中学校での練習は予定通り、休日と祝日にすることになった。毎週道場に出向いては中学生の練習を手伝う。自主練習の時は僕達も的前に入り、練習に精を出した。
 高瀬は初心者ということもあり、射法八節通りの形を身につけるところから始まった。宝の持ち腐れだった知識も、本格的に取り組むことができる今なら有効に利用することができる。知識がある人とない人では、当然吸収力も変わってくる。何より高瀬本人が、楽しそうに弓道をしていることがとても嬉しかった。
 中学の頃から弓道をしていた古林は、立の練習で必ず一中以上の中りを出していた。特に顕著だったのが、最後の一本を必ず中てていたことだ。本人にそのことを聞くと「最後は中てるだろ」と余裕をみせる返答をしてきた。
順調に練習を行っていく中、二月の練習試合に向けて考えなくてはいけないことがある。
 弓道は主に三人立と五人立の試合がある。僕達が出るのは、間違いなく三人立。弓道の試合では的中数はもちろん、四本の矢の何本目を中てることができるかを考えることがある。今回の練習試合では周囲よりも練習量が少ない分、より慎重に射る順番を考えないといけない。とにかく上位に食い込まないと、先がないのだから。
 三人立では最初に射る人のことを大前(おおまえ)と言い、二番目は(なか)、三番目を(おち)と呼ぶ。これを高瀬と古林と僕にあてはめていく。
 古林は間違いなく落の素質を持っていると思う。冷静に物事の判断ができて、全体を見渡す能力がある。さらに的中数も期待できる。中でも最後の一射を中てることができるのは、落として十分な素質があると断言できる。
 一方の高瀬は初心者なので、中に入るのが無難。そうすると、残る大前は僕が担当することになる。
 大前は一射目の的中率が高い人がよく選ばれる。一射目を中てることは、チームに勢いをつける。皆を引っ張っていける人がなるべきポジションだ。僕には皆を引っ張ることができるか自信がないけど、どの立ち位置も経験したことがある。なにより初心者の高瀬に任せるには荷が重い。
 何となく試合に向けての展望が見えてきたけど、試合では的中数を意識していかないといけない。