翌日。
 貴人が言っていたとおり、本当に繭香が登校してきた。
 
 放課後になるのが待ちきれず、昼休みに二組をのぞきに行った私を見て、眉間に皺を寄せる。
「何しにきたんだ」
 
 あまりにも冷たい口調のわりには、表情はどこか嬉しそうに見えた。
(ふんだ。いくら憎まれ口きいたって……私にはちゃんとわかるんだからね……!)
 
 ちょっと威張り気味に胸を反らす私を見て、繭香は「ははん」と目を眇める。
「琴美……お前、私の病気のことを聞いただろう?」
 
 ドキリとして、私は思わず数センチ飛び上がった。
「それでどっかの誰かさんと同じように、『自分が守ってやろう』なんて、お節介なことを考えてるわけだな……?」
 
 一番廊下側の最前列の席で、何人かの男の子と談笑している貴人と、私の顔を、繭香は何度も見比べる。
 
(うっ……そのとおりです……)
 図星を指されて、心の中で白旗を上げる私に、繭香はニタリと唇の端を吊り上げるようにして笑う。
 
「ふふふっ。これで使える、家来が増えた……」
「ちょ、ちょっと! 家来ってねぇ……!」
 私が慌てて抗議の声を上げると、繭香の人の悪そうな微笑みが、満面の笑顔へと変化する。
 その顔を見ていたら、なんだか怒る気持ちも失せてしまった。
 
(なんか憎めない……それにやっぱり守ってやりたい……ひょっとして貴人もこういう気持ちなのかな……?)
 貴人のほうをそっと盗み見てみる。
 絶対に気付かれるはずないと思っていたのに、貴人は実にタイミングよくこちらを振り返って、パチリと私に片目を閉じてみせた。
 鮮やかな笑顔に胸が鳴る。
 
(そ、そんなこと! こんな、人がいっぱいいるところでしないでよ! な、何やってるのよ……!)
 真っ赤になって俯いた私を見て、繭香が笑い出す。
 
「なんだ琴美! まるで蛸みたいだぞ……?」
「た、蛸って……!」
 怒ってますます赤くなる私を、繭香は声を上げて笑う。
 
(ねぇちょっと……そんなに笑うと体に悪いんじゃないの……?)
 私が少し心配になってしまうくらい、繭香はコロコロと笑い転げた。
 
「こ、琴美……これ以上はちょっとマズイから、もう笑わせるな……」
 いかにも苦しそうにそんなことを言われても、
 
「それって、私のせいじゃないでしょう!」
 と抗議の声を上げることしか出来なくて、私のそんな反応は、ますます繭香を笑わせてしまうばかりだった。