学校内に緑が多いことを自慢の一つとしている星颯学園に、耳を塞ぎたくなるほどに蝉の大合唱が響き渡る季節がやってきた。
『HEAVEN準備室』の周りだって、もちろんその例外ではない。
 暑い夏は、もうすぐそこまで近づいていた。
 
 私が渉とサヨナラしてからは一ヶ月。
『HEAVEN』の一員として、生徒会選挙に向かって動き始めてからは、三週間。
 放課後、『HEAVEN準備室』に通うのだって、すっかり習慣になった。
 
 ひとしきりみんなで話しあったり、今後の活動について取り決めしたりしたら、帰りはその日来ている同じ方向の仲間と一緒に帰る。
 私は帰り道、可憐さんと諒と一緒になることが多かった。
 
 可憐さんは初めて会った時こそ、メイクの濃さとフェロモン全開の雰囲気に正直引いてしまったが、よく話してみると私とよく気があった。
 好きな映画。
 好きな歌手。
 好きな本と二人で盛り上がり、準備室ではよく諒に怒鳴られてばかりいる。
 
「お前たちが揃ってると、全然仕事が進まない!」
 でも可憐さんがしゅんとした顔になって、綺麗な顔を少し曇らせて謝ると、諒はあっさりと引いてしまうのだ。
 
「ごめんなさいねぇ……」
「まあ、別にいいけど……」
 
 私に対する時とはあまりにも違いすぎるその態度に、なんだか引っかかるものを感じた。
(なんだろう……この反応……?)
 
 私はあまりその手のカンがいいほうではない。
 そう自負しているのだが、なんだか今回ばかりは閃いたような気がする。
 
(諒って、ひょっとして可憐さんのことを……?)
 そう思うと、まるで鬼の首でも取ったみたいで、私はひどく嬉しくなった。
 
(ふふふっ……いいこと知っちゃったわ……!)
 つまらないとばかり思っていた高校生活一年三ヶ月目にして、初めて手に入れた面白すぎるネタだった。