「もう、開けちゃっていいかしら」
「いいですよ。その前にちょっと前、失礼します」

 テーブルの真ん中にあった隙間。そこに置かれた鍋敷きに、どっしりとしたフライパンが載せられた。

「えっ……、フライパン? この中身ってもしかして、パエリア?」

 指差しながら塩見くんを見上げると、両手につけたミトンを外しながら「正解です」と微笑む。

「パエリアって、家で作れるの!? しかもフライパンで? スペイン料理の店だと、専用の浅い鍋みたいなので出てくるけど」
「パエリア鍋がなくても代用できるんですよ。生米を炒めてから炊くので時間はかかりますが、慣れれば炊き加減もわかってきますし」

 私は、感心しながらため息をついた。

「スペイン料理まで作れるなんて、すごいわね。塩見くんに作れない料理ってあるのかしら」
「そりゃあ僕にだってありますよ。それより、シャンパン開けなくていいんですか?」
「あ、忘れてた」

 家から持参したオープナーを手に持ったまま、パエリアに目が行っていた。
 パエリアの色彩が加わったテーブルの上は、二次会でいただいたビュッフェより華やかでおいしそうなんだから仕方ない。