「いないよ。どっちもいない。高木さんは?」
「俺は、付き合っている子は今はいないけど。でも、ほしいとは思ってるかな」
「うん、私もほしくないわけじゃないんだけど。仕事が忙しいとなかなかできないよねー」

 こんなモテそうな人にも恋人がいないとは驚きだ。まあ人生そういうタイミングもあるよね、とフォローしたのだが、高木さんはじっと自分のカクテルに目を落としている。

「あの、充希ちゃん。じゃあさ」

 高木さんが、怒ったような――眉に力を入れた表情で私に向き直った。

「……ん?」

 少しだけ緊迫した空気が私たちの間に流れたのだが、友人たちが合流したグループから手招きと共に飛んでくる声で、それが壊れた。

「おーい、高木! そろそろこっちに合流しろよ!」

 高木さんは手を振ってそれに応えたあと、「なんだよ、タイミング悪いな……」と小声でぼやく。

「じゃあ、行こうか。充希ちゃん」
「あ、うん……」

 高木さんのあとについて、みんなが集まっている場所に行くと、祐子から含みがありそうな笑顔を向けられた。京香は既婚者らしき男性と、子育ての話題で盛り上がってる。