「充希のとこの会社の新色、予約しよっかな。見てたらほしくなっちゃった。よそいきメイクなんてめったにしないけど」

 主婦の京香も会話に入ってくる。お世辞は言わない友人たちに、こんなふうに興味を持ってもらえるのはうれしいことだ。

「えー、うれしい。ほかの色も自信作だからホームページ見てみて!」

 と言いつつ自分のスマホを操作して、新色一覧のページを見せる。このリップ、発色がクリアだから主婦にもオススメだよとセールストークを繰り出していると、祐子がため息をついた。

「充希はほんと、今の仕事が天職だよね。楽しそうでうらやましい」
「祐子のほうは、銀行どうなの? 就職したばかりのころは、けっこう自分に合ってるって言ってたじゃない」
「最近は窓口業務じゃなくて資産運用の営業に回されてさー……。どうも私、営業には向いてなかったみたいで、毎日ストレスがやばい」
「営業かー……。大変って聞くよね」

 塩見くんはソツなくこなしているけれど、化粧品会社の営業と、お金を扱う銀行員ではまた事情も違うのだろう。