「では、独身の女性は前に出てきてください」

 司会の音頭で、もうすでに子持ちの友人以外は前に進み出る。新婦側の友人にはもちろん知らない人もいるわけだが、ほとんどの人が前に出たことにホッとする。これで独身が数人だったら落ち込むところだ。新郎新婦の親族からも、ちらほらと何人か。

 そして、階段中ほどで待機していた花嫁が後ろ向きになり、ブーケをぽーんと空高く放った。しかしそれは、私たちが集まっている場所からずれた方角へ飛んでいく。

 千鶴ったら、暴投! このままでは誰にも受け取られないまま、ブーケがむなしく地面に落ちてしまう。

 隣にいた友人から「充希、行け!」と肘でつつかれると同時に、私はヒールの靴で駆け出していた。上体を低く落として、地面すれすれのところでブーケをキャッチ。

 その瞬間、「おおー」という歓声とともに拍手が湧き上がった。

 なにが起こったのか察した千鶴も、「充希、さすが! ありがとう!」と声をかけてくれる。私はブーケごと手を振ってそれに応えた。
 式の最中にお礼を言ってもらえて、照れくさくもちょっと誇らしい気持ちだ。

 勇者の凱旋のように友人たちのもとに戻ると、

「私がつつくより先に飛び出してたよね」
「こういうときにやってくれるのはやっぱり充希だよね」

 と褒め称えられ、ますます鼻高々になっていた。ここで目立ったことが、のちのち面倒な事態を引き起こすなんて、露ほども思わずに。