「心配してくれてありがと。じゃあ、遠慮なく頼んじゃうわね」

 お揃いのTシャツを着ているスタッフを呼んで、メニュー表を指差して読み上げる。

「まずは生ふたつで。おつまみは、ジャーマンポテトのピザと、スパイシーチキンと……」

 ひととおり注文を終え、スタッフが去っていくと、久保田がおしぼりで手を拭きながら尋ねてきた。

「今日は枝豆、頼まないんですか? この前ブームって言ってたじゃないですか」
「ああ、うん。いいの。本当においしい枝豆を食べちゃったから、ほかのところで頼みたくなくなっちゃって」

 塩見くんの焼き枝豆に勝てる枝豆なんて、ここにはないもんね。
 そう答えると、久保田が興奮しながら身を乗り出してきた。

「ええ~、どこの店ですか! 今度連れてってくださいよ」
「ダメ。そこだけは、秘密」
「ひどい、ズルい」

 すねた口調で騒ぐ久保田をあやしながら、私の心は次の季節に飛んでいた。

 もうすぐ、九月。秋にはおいしい食材がたくさんあるし、塩見くんはどんなおつまみを作ってくれるだろう。

 夏も秋も関係なく、私には一年中楽しみなとっておきイベントがあるんだよって思うと、都会の喧騒に包まれたビアガーデンの景色さえ、キレイに見える気がした。