「あんなところ見せちゃったんだもの、きっと喧嘩っ早い怖い女だと思われた……。もう恥ずかしくて、あの店に行けないよ……」

 七月の夜。生ぬるい風が、ほてった私の頬を撫でていく。せっかく見つけたお気に入りの店だったのにな、と思うと、じんわりまぶたが熱くなってきた。

「ああ~、もう!」

 ハンカチで乱暴に顔を拭いて、ぐしゃぐしゃと頭をかく。時間をかけてセットした巻き髪も、丁寧に作り込んだメイクも台無しだ。

「来週から、なにを励みに仕事をしたらいいんだろう……」

 ブーン、と鳴る街灯の音を聞きながら、夏の始まりの夜道で私は途方に暮れていた。