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 その後、私は夏バテからすっかり快復し、再び体調を崩すこともなく八月下旬を迎えた。

「先輩、あのビアガーデン、今週で終わりみたいですよ。最後にふたりで行っておきません? 今年の夏の締めってことで」

 八月最後の水曜日、久保田に飲みに誘われた。ふたつ返事で了承したあと、椅子に座ったままうーんと背伸びしてため息をつく。

「もう夏も終わりかあ。今年も夏っぽいことはビアガーデン行っただけだなあ」
「花火大会とか、海とか、行ってないんですか?」
「女友達を誘う歳じゃないし、恋人がいなかったら行く機会なんてないわよ」

 友達同士で集まっても、冷房の効いたショッピングモールから動きたくないお年頃だ。紫外線の心配もないし、なによりいつでも座って休憩できるのがいい。

 それを言ったら、「先輩それって、アラサーっていうよりおばあちゃんみたいですよ……」と心配された。

「久保田はどうなのよ。夏のイベント、行ったの?」

 社交辞令で尋ねたのに、久保田はふふふ、と含み笑いをしてからキャピッとした声を出した。

「私は、合コンで知り合った男女グループで行ってきましたぁ」

 リア充め、と怨念を送ると、久保田は「こわーい」と大げさに肩を震わせた。