「やっぱり塩見くん、面白がってるでしょう!」

 テーブルから身を乗り出して拳を上げると、身をよじって避けた塩見くんがとうとう笑い出した。

「そんなことないですって」
「笑いながら言われても、説得力ないわよ!」

 もう!と怒り顔をキープしようとしたのに、私も塩見くんにつられて笑ってしまう。

 最初のイメージとはどんどん離れていくのに、今の塩見くんのほうが好ましいと思うのは、どうしてなんだろう。

 どっちにしても、『ほかの人に知られてもいい』と言われたときに『もうここには来ない』という選択肢が出てこなかった時点で、金曜日のこの時間が、私の中でなによりも大切になっていることは事実なんだ。

 そしてきっとそれは、おいしいおつまみごはんだけじゃなく、この油断ならない後輩が作ってくれる、素の自分でいられる空間のせいでもあるんじゃないかな。

 夕飯のぬくもりが残るテーブルを挟んで塩見くんと笑い合いながら、そんなことを考えていた。