「もとから言いふらすつもりはないですけど……。なんでですか? 知られたらまずい人でも?」
「ううん、そういうわけじゃないの。ただちょっと……、うっかりほかの人に知られちゃって、面倒なことになったら嫌だなって」

 すぐに『いいですよ』と了承してくれると思ったのに、塩見くんは「なるほど」と頷いてから間を取った。

「僕は別にいいですけどね、ほかの人に知られても」
「えっ?」
「だって、悪いことをしているわけじゃないし」

 あっさりとそう言い放つ塩見くんが、知らない人のように見える。

「そりゃあ、そうだけど」

 塩見くんって、こんなこと言う子だったっけ? 後輩だからと侮っていたのだろうか。まさか反論されるとは思っていなかった。

 予想外の展開に、冷や汗が出てきた。ど、どうしようと焦りながら二の句を継げずにいると、真顔だった塩見くんがぷっと噴き出した。

「すみません、冗談です。ちゃんと内緒にしておきますから、心配しないでください。先輩くらいの役職だと、いろいろありますもんね」

 その表情も声も、明らかに笑いをこらえている。