「それ以来、自分でも食べ物で誰かの力になれたらな、と思うようになって……。なので、自分の作るおつまみが先輩の仕事の支えになるなら、すごく光栄なことなんですよ。それが理由です」

 最後は明るい口調で塩見くんが締めてくれた。

 つまり、過去の自分みたいに困っている人がいたら、自分の作る料理で助けてあげたいと思っていた、ということだろう。

 だからといってここまで手間をかけられる人はなかなかいない。まるで仏様のようだ。塩見くんの背後に、後光が射して見える。

「そうだったのね……。今日は本当に、ありがとう」
「いえ。こちらこそ、食べてもらえてよかったです。あ、そうだ。甘酒の残り、持ち帰りますか?」
「あ、うん。いただいてもいいなら」

 甘酒を入れた魔法瓶の水筒を渡され、「それじゃ……」とお開きの雰囲気になったところで、私は大事なことを思い出した。

「あの……。この流れで申し訳ないんだけど、私、塩見くんに話さなきゃいけないこと、まだ残ってて」

 さっきまで忘れていたけれど、今日は話があったんだった。

「なんですか?」
「あのね。私が塩見くんの家でおつまみをごちそうになっていること、会社の人には内緒にしていてほしくて」

 失礼な言い方にならないように、少し緊張しながら声のトーンを下げる。
 塩見くんは、少し眉をひそめたあと、首をかしげた。