心は騒ぎつつも、箸はしっかりみぞれ煮に伸びている。大根おろしのたっぷりかかった鶏肉を口に入れると、しっかりした煮物の味のあとに大根のほのかな辛みを感じた。

「おいしい! 甘辛い味付けでも、大根おろしがあるだけでさっぱりするのね。これだったらいくらでも入りそう」
「実はお酢も少し入っているんです。酸味があったほうが食べやすいかなと思って」
「うんうん。大根の辛みと、お酢の酸味がいい味出してる! 実は、お酢の効いたものって大好きなの」

 ご飯茶碗にも、手を伸ばす。ずっとおかゆを食べていたから、久しぶりの白米がうれしい。

「じゃあ、僕と一緒だ。前々から感じていたんですけど、先輩とは食の好みが合うんですね」

 塩見くんは、おかずとご飯、汁物をバランスよく順番に食べている。箸の持ち方もキレイだし、育ちがいいんだろうな。

「そうかも。塩見くんのおつまみって、どれも私の好みを突いてくるもの。でも、塩見くんの作るものは、だれが食べてもおいしく感じると思うけど……」

 男女のお付き合いで大事なことは食の好みが合うことだって聞いたことがある。今それを思い出すのは気まずいが、私たちの場合は単に塩見くんが料理上手なだけとも言えるのでは。