「メインのほうも、あとは仕上げをするだけですから」

 いろんなトッピングを試しながら変わり冷奴を楽しんでいると、キッチンから食欲をそそる香りが漂ってきた。
 実家のキッチンからもよくしていた、甘辛い煮物の匂い。醤油とみりんを合わせた匂いって、どうしてこんなに懐かしくてほっこりするんだろう。

 お鍋をコトコト煮込んでいる塩見くんの後ろ姿からも、なんだか母性を感じるような。
 夫の帰りを待つ妻の次は煮物を作るお母さんだなんて、そんなこと塩見くんにはとても言えないが。

 すっかり変わり冷奴を堪能し終えたころ、タイミングを図ったかのように塩見くんが大皿を持ってきた。

「お待たせしました」

 ほかほかの湯気をたてているのは、鶏肉の煮物。上に和風ソースのようなものがかかっていて、ネギが彩りよく散らしてある。

「鶏肉のみぞれ煮です。大根おろしを入れて煮たものなんですよ」
「へ~、これって、大根おろしなんだ」

 確かに、ハンバーグに大根おろしを載せて、ポン酢をかけた状態によく似ている。