「変わり冷奴です。こっちのお皿にあるのは、韓国海苔をちぎったものと、ネギとかつお節を醤油で味付けしたもの、ショウガの梅肉あえです。お豆腐に載せて食べてください。もちろん、そのまま食べてもいいですよ」
「すごい、こんな冷奴だったら食べるのが楽しいわね」
「これ、実はうちの実家での定番メニューだったんですよ」
「塩見家の?」

 首をかしげながら尋ねると、塩見くんは昔を思い出すような眼差しになる。

「はい。僕、子どものころは冷奴って苦手だったんです。味がしない、って言って母を困らせていました。それで母が工夫して、子どもが好きそうなトッピングをいろいろ用意してくれたんです」
「へえ……。優しいお母さんなのね」
「今回、それを思い出して。お酒好きな人って、いろんなおつまみを少しずつつまむのが好きでしょう? 胃に優しいものといってもそういう楽しみは残したくて、大人向けトッピングに変えたバージョンを作ってみたんです」

 いろんな味を、少しずつ。イタリアンの前菜のように繊細に盛り付けられたお皿には、お母さんから塩見くんに受け継がれた、優しさと思いやりがつまっている気がした。