しかし、その祈りは届かなかったようだ。せっかくの金曜日なのに、胃はまだムカムカしていて食欲がない。昨日あった吐き気はなくなったからまだマシだけれど、『おいしいおつまみをたくさん食べるぞ!』という気分にはならない。

 朝昼と胃薬を飲んでみたけれどダメで、気分はどんどん下向きになる。そのうえ、ふだんだったらしないミスをやらかして残業するはめになった。

 もしかして、一昨日のショックが尾を引いているのでは、と思ったけれど、自分がそのくらいで仕事に支障をきたす人間だと思いたくなかった。

 定時を過ぎたころ、書類の陰に隠れて、デスクでこっそり塩見くんにメールを送る。

『ごめん、残業になっちゃった。遅くなりそうだし、ここのところ夏バテで胃腸の調子も悪かったから、今日の約束はナシでいいかな』

 送信ボタンを押すのには勇気がいった。塩見くん側の事情なら仕方ないと諦めがつくものの、目の前にぶらさがっているおいしいおつまみを自分から断らなければいけないなんて、つらすぎる。

『了解しました。残業、無理しないでくださいね』

 すぐにスマホが震えて、塩見くんからの返信が届いた。彼のイメージよりはそっけない文面だったけれど、こちらを気遣ってくれるところはやっぱり塩見くんだ。

 心配してくれる人がいることで、胸のあたりがぽかぽかするのを感じながら、私はスマホをバッグにしまってパソコンに向かった。