このおじさんふたりがどういう事情でこの店に来たのか、私にはわからない。もしかしたら家庭がうまくいってないのかもしれないし、会社で女性社員と揉めたばかりなのかもしれない。私というより、私のような女全員に対する負の感情が感じられたから。

 だからといって、がんばっている人たち全員をバカにするような言い方、許せなかった。

「ちょっと待って。今、なんて言いました?」
「――は?」

 充希ちゃん、と大将のたしなめる声が聞こえたが、スツールから立ち上がった私の怒りはもう止められなかった。

「ここにいる女性だけじゃなくて、このお店も貶める言い方を、あなたたちはしたんですよ。気分が悪いのはこちらです」
「な、なんだとぉ。小娘のくせに」
「その『小娘』のほうが、みなさんマナーを守って飲んでいますよ。お手本になるべき立場の人たちがこんな醜態をさらしているなんて、がっかりです」

 おじさんたちはぐっと口をつぐみ、他のお客さんたちもおしゃべりを止めて私たちの動向を見守っていた。九十年代の懐メロ有線だけが、コメディ映画のワンシーンのようにスピーカーから流れ続けている。