「久保田も知ってたの? 塩見くんのこと」

 輪には入らず、かと言って『それ、誰?』と興味津々というわけでもない久保田に尋ねる。

「だって私、同期ですもん。同期会とかけっこうやるんですけど、塩見くんが来るときは女子の出席率が高いんですよ」

 あっさりした口調で、フライドポテトをぱくつく。この様子だと、久保田自身は塩見くんに特別な感情はなさそうだ。確か以前、バリバリの肉食系が好きだと話していた気がする。

「たしか、フリーでしたよね、彼」
「んー、でも、同じ営業部の同期が真剣に狙ってるみたいですよ」
「え!!」

 久保田の爆弾発言に、反射的に大きな声が出てしまった。

「草食系っぽくて、あんまり手ごたえないーって嘆いてましたけど。……なんで日向先輩、そんなに驚くんですか?」

 久保田の声を聞きながら、頭の中ではうぅむまずいなとひやひやしていた。今まで、塩見くんとのことがバレたらいろいろ面倒そうだから隠しておこう、くらいの気持ちだったけれど、塩見くんがこんなに有名人だとなると話は別だ。万が一バレたら、女子社員の恨みを一斉にかってしまうのでは……?

 お付き合いもしていない、しかも年上の私が、毎週塩見くん宅に上がり込んでいるなんて、塩見くんの評判さえ落としかねない。

 これは絶対にバレないよう気をつけて、塩見くんにも釘をさしておかなければなるまい。