「そんなに申し訳なさそうな顔しなくていいわよ。私も今までは、仕事が楽しすぎて彼氏がいなくても気にしていなかったのに」
「今までは、ってことは、今は気にしてるんですか?」

 久保田がギラッと目を光らせて、私の失言に食いついてきた。

「そ、それは、言葉のあやで……」

 ずいっと顔を近づけてくる久保田から目を逸らして言い訳したとき、口うるさい男性上司が帰ってきた。煙草の匂いが漂ってきたから、喫煙室に行っていたのだろう。

「あっ、まずい。それじゃ先輩、またあとで」
「ん、じゃあまた帰りにね」

 ひそひそ声で告げて、自分のデスクに戻っていく久保田。いつもだったらうれしくない上司の帰還だけど、今は天の助けに思えた。

 そういえば塩見くんの部屋もシャツも、煙草の匂いはしなかったな、とふと思う。私は煙草の煙が得意なほうではないから、付き合うにしてもそこはポイントが高い。

 ……って、私どうして、塩見くんを彼氏にしたい前提で考えているのよ。
 無意識に塩見くんを男性としてジャッジしていたことに、焦って頭を振る。

 だいたい、四歳年上の干物女なんて恋愛対象にならないから、宅飲みに誘ってくれてるんだと思うし。
 自分に対して好意を持ちそうな相手に期待させるタイプではないと思うから、私で都合がよかったんだろうな。

 ちゃんとわきまえているから安心してくださいね、と、心の中を覗かれているわけでもないのに塩見くんに弁明している自分がいた。