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 それから何度か金曜日を迎え、カレンダーは八月に変わった。

 塩見くんのおつまみごはんは、毎回感激するおいしさだった。うなぎを買っていったときには〆にうな茶を作ってくれたし、夏野菜の天ぷらのときには、なんとカウンターに私を座らせて揚げたてを食べさせてくれた。塩でいただくさくさくの天ぷらは、アパートの一室が料亭に思えてくるくらい本格的な味だった。

 毎日暑くて夏バテ気味だけど、『今週のおつまみごはんはなんだろう』と想像するだけで猛暑を乗りきれそうな気がする。

「先輩、今日仕事終わったらビアガーデンに行きませんか? 毎年やってるビルの屋上で、今年も始まったみたいですよ」

 ノー残業デーの水曜日、久保田がうきうきした様子で声をかけてくる。手にはビアガーデンのチラシを持っていた。ランチに行ったときにでも、もらってきたのだろうか。

「そっか、もうそんな時期なのね。私も行きたいかも。ほかにだれか誘うの?」
「企画部の女子に声かけてみようと思ってて。まあどうせ、いつものメンバーになりそうですけど」

 こういうイベントに必ず乗ってくれるのは、独身彼氏ナシのメンバーだ。私も久保田もそこに入っているので、後半のセリフには若干の自虐が含まれる。