「充希ちゃん、ごめんね。気にしないで」

 無表情で、サワーを口に運ぶ手を止めた私に、大将は申し訳なさそうに謝ってくれた。

「……大丈夫です、気にしてません。女ひとりで飲んでいると、よくありますから」

 そう、この店に通うまでは、絡まれることがよくあった。一緒に飲む相手がほしいと思われたり、自分たちの楽しみのためだけにちょっかいをかけられたり。私はただひとりで、おいしいおつまみとお酒に向き合いたいだけなのに。

 なんにしても、大将に罪はない。さくっとスルーして、こちらはこちらで楽しく飲もう。そう気を取り直したのに、ふたり組はそこで攻撃をやめなかった。

「というか、この店自体、女が多いなあ。来る店間違えたか?」

 テーブル席をぐるっと見回して、店内全体に響くような大声で叫ぶ。テーブル席で飲んでいた顔見知りの女性グループが、あからさまに不快な顔をした。

「女が男の店に浸食するようになっちゃおしまいだね。気分が悪いったら」
「まあまあ。自分が男と同じくらい仕事をできているって勘違いしちゃってるOLなんでしょ、こんなとこで飲むのは」

 ジョッキの太い取っ手を持つ力に、ぎゅっと力が入った。