「あっ……と。ごめんなさい、服にファンデーションついちゃったかも」
「洗濯すれば落ちますし、そんなこと気にしなくていいですよ。それに先輩、あんまりファンデーションつけてないんじゃないですか?」
「そんなわけないじゃない。こんなにがっつりメイクしてるのに」

 流行りの『セミマットな人形肌』に見せるため、コンシーラーとカバー力のあるリキッドファンデを駆使しているのだ。

「そうなんですか? すっぴんのときに肌がキレイだったから、勝手にあまり塗っていないものだと思ってました」
「そっ……」

 さらっと放たれた言葉に、顔が熱くなる。ああ、この子と話している女子がみんなうれしそうにしている理由がわかった。いちいち細かいところに気づいて褒めてくれる男性はあまりいないし、実際それをされるとお世辞だとしても舞い上がってしまうものだ。

 素敵な男性に褒められて、うれしくない女子などいない。まして年下の男の子に肌を褒められるなんて、その極みだ。

「そんなこと、ないけど、ありがと」

 動揺していることを悟られないように、クールな声色を保ったままお礼を述べる。恥ずかしくて、塩見くんの顔を見ることができず、電車の窓に貼られた広告をひたすら眺めていた。