「えっ、なに言ってるんですか? そんなことありませんよ」

 謙遜ではなく正直心外だ、という口調で塩見くんが返す。

 退勤時間帯で人の多い車内。声が聞き取りづらいのでいつもより会話の距離が近めだ。私も女性にしては背が高めだけど、塩見くんはさらに高いので、首を下に傾けて顏を近づけてくれる格好になる。

「いやいや、絶対モテてるって。ここ一週間、塩見くんのこと見ていたらそう感じたんだもの」

 上品で優しそうな見た目だから男を感じない、なんてのほほんとしたことを考えていたのは私だけで、爽やかでいやらしさを感じない男の子がいたら女性は好ましいと思うものだ。普通は。

「……僕のこと、見ていてくれたんですか?」

 塩見くんが私を見下ろしながら、いたずらっぽい笑みを浮かべて尋ねる。

「えっ。ち、違う。見ていたってそういう意味じゃなくて、たまたま目についたというか、今までより目に入るようになったというか……」

 私が焦るのと、電車が揺れるタイミングが一緒で、吊り革につかまったまま塩見くんの肩に頭が触れる。

「大丈夫ですか?」

 塩見くんのシャツからは、シトラスの香りがした。自分の頭は汗臭くないだろうかと急に不安になる。