不思議なもので、一度知り合いになると社内でも塩見くんの姿がよく目につくようになった。

 目立たない子だと思っていたけれど、誰とでもなごやかに話をしているし、気分屋の上司も塩見くん相手のときは常に笑顔だ。だれかが仕事でつまずいていれば声をかけて気分を変えてあげるし、フォローに入るタイミングがバツグンにうまい。

 ああ、この子は目立たないんじゃなくて、みんながスムーズに仕事ができるよう、裏で立ち回ってくれるタイプなんだなと気づく。

 ちょっと観察しただけでわかることなのに、今まで目に入ってなかったなんて、私は本当に自分しか見えていなかったんだな。

 そしてさらに私は知ってしまう。塩見くんと接するときは、女性社員がにわかに華やいだ雰囲気になるのを。

「塩見くんって、モテるでしょ」

 偶然一緒になった帰りの電車で、並んで吊り革につかまりながらそう尋ねる。

 アパートが同じなのに今まで帰り道で会ったことがないなと思っていたのだが、塩見くんのほうで意識して車両や時間をずらしてくれていたらしい。
『毎日、同じ時間帯に同じアパートに帰る男がいたら怖いでしょう』というのが塩見くんの言い分だ。

 つくづく気が細やかな人だなあと感心するが、今はそんな彼が気を遣わなくなったというのがうれしく感じる。