「……なるほど。それでお気に入りの店に行けなくなったんですね」
「そうなの。おかげで今週は仕事に身が入らなくてね。後輩には心配されるし、散々だったわ……」
「……そうですか」

 塩見くんは、なにも言わずに神妙にコーヒーを飲んでいた。同情してくれているのかなと思ったのだが、カップを置いたかと思うと、急に真剣な表情になって私の目をじっと見た。

「日向先輩。提案なんですが」
「え、なに?」

 急にそんな顔されると、緊張するんだけど。

「だったら、毎週金曜日、僕のうちで飲みませんか」
「えっ!?」

 思ってもみなかった申し出に、素っ頓狂な声が出てしまう。塩見くんは硬くなっていた表情を崩してわずかに微笑む。

「僕、おつまみを作るのは好きだけど、自分では飲めないじゃないですか。今日、先輩に『ビールに合う』って喜んでもらえてうれしかったんですよね」

 ぽかんとしながら塩見くんの言葉を聞く。