塩見くんは食後に桃をむいて、コーヒーも出してくれた。食べ終わったらすぐお(いとま)しようと思っていたのだが、居心地がいいせいか、ついつい長居してしまう。

「先輩。そういえば、料理ができないってわかっているのに、どうして油揚げを焼こうと思ったんですか?」
「えっ」

 突然放たれた塩見くんのジャブに、口の中に入った桃が飛び出すかと思った。

「いや、なにか理由があったのかと思って。フライパンもずっと使ってないって言ってましたよね」
「そ、それは……」

 ドキドキしながら、桃をごくんと音をたてて飲みこむ。
 塩見くんは微笑みを消して、見透かすような目で見つめてくる。人畜無害な草食系だと思っていたら、意外と鋭いところがある。

 居酒屋でのひと悶着は、できれば人には打ち明けたくないことだった。そもそも、ひとり飲みが好きなことだって人には言っていない。

 でも……。塩見くんだったら、バカにしないで聞いてくれそうな気がした。私だって本当は、だれかに話してさっさと嫌な気分を消したかったのだ。

「実はね――」

 あの日のことを、ひととおり説明する。自分が毎週のひとり飲みを楽しみにしていたことまで、全部。