それなら、三色どれにでも合うなじみ系のグロスをセットにしたらどうだろう。リップはそれぞれ、まったく違う系統のはっきりした色にして。それならグロスの重ね塗りでイメージをがらっと変えられるし、オンとオフで使い分けもできる。

 三色の中身が皮からほんのり透ける餃子と、苦手なシソを餃子に入れた話から思いついたのだ。

「えっ、餃子からアイディアですか?」

 塩見くんは、ご飯茶碗から顔を上げて驚いた声を出した。

「うん、餃子から。ありがとう、塩見くんのおかげだわ」
「お役に立てたなら光栄です。……先輩は本当に、仕事が好きなんですね」

 そうつぶやく塩見くんはまぶしそうに私を見つめていて、なんだか照れる。

「好きな仕事をやっているだけよ。楽しくなかったらやってないし」
「その、楽しいと思えるのがすごいんじゃないですか?」
「そうなの……? ずっと、楽しいと感じたことしかないから、わからないわ」

 私からすると、楽しくない仕事をずっと続けている人のほうがよっぽどすごいと思うけれど。

「やっぱり、日向先輩はすごいです」

 塩見くんが遠くを見つめるようにつぶやいたので、私はなにも返さずにその言葉を受け取っておいた。