「大将、ビールおかわり! あと、トマトチーズの揚げ串と、手羽先も追加ね」

 会社では冷房対策として着ているカーディガンを半袖ブラウスの上からプロデューサー巻きして、私は空になったジョッキを威勢よく上げた。

「はいはい。充希(みつき)ちゃん、今日もペース早いねえ」
「そりゃあ、金曜日はここのおつまみのためにお昼を軽くしてますから」

 居酒屋を開く前はホテルで和食を作っていたという大将は「それはうれしいねえ」とつぶやきながらカウンターにジョッキを置いた。

 なごやかだった店内の雰囲気が変わったのは、そのころだっただろうか。私と数席あけてカウンター席に座ったサラリーマンふたり組が、大声で話し始めたのだった。

 白髪まじりの頭から察するに、会社では部長クラス。まわりの迷惑を考えず、唾を飛ばしながらガハハと笑い合っている様子からすると、女子社員からは嫌われるタイプだろう。

 常連が多い店なので、みんな『厄介な客がいるな』とは思いつつも顔には出さず、いつも通り飲んでいた。このくらいだったら、よくあることなのだ。