いちごミルクの日から、私と塩見くんは仕事で関わることもなく時間が過ぎていったけれど、油揚げを焦がしたことから歯車が回り始める。

「あのボヤ騒ぎの日、チャンスだと思ったんです。ここで誘わなかったら、先輩と親しくなれる機会はないと思って……。あれでも、緊張していたんですよ」
「全然わからなかった。人助けだと思っていたもの……」
「だから先輩は、もう少し男を警戒したほうがいいって言ってるんです」

 塩見くんは中腰の体勢でテーブルを回り、私との距離をじりじりと詰めてくる。

「え、えっ」

 私の腰が引けているせいで、押し倒される直前のような体勢が完成した。展開が早すぎて、頭が追い付かない。

「ちょ、ちょっと待って。ほ、ほんとに苦労させないの……?」

 今日、私も塩見くんに告白しようと思っていたこと。伝えようと思っていたけれど、これだけ手のひらで転がされた仕返しに、しばらく内緒にしておきたくなった。塩見くんにはそんなことすら、お見通しな気がするけれど。

「させません。先輩は、僕の作るおつまみ、どのくらい好きですか?」
「え? う、う~ん、控えめに言って日本一、かしら……?」

 真面目に答えたのに、塩見くんはおかしそうにくすくす笑い出す。