塩見くんは私にグラスを渡すと、シャツの上から黒いエプロンを身に着けた。その姿がサマになっていて、男の人のエプロン姿も清潔感があって素敵なのね、と感心する。

 ……塩見くんの部屋も装いも完璧だというのに、なぜ私はスエットのままでグラスにビールをついでいるのか。
 玄関先で待たせては悪いと、ビールだけつかんで部屋を出てきたのだが、自分がオシャレ空間に入り込んだ異物に思えてくる。

 いやいや、そんなことを気にしておいしいお酒が飲めるか。グラスに注いだビールは、我ながら泡とビールの割合が完璧だ。ひとくちめを飲み干すと、思わずぷはーっという息が出る。本日二回目のひとくちめなのに、グラスに注ぐというひと手間だけで、なんでこんなにおいしく感じるのだろうか。

「先輩、暇だったらテレビとか音楽とか、勝手につけていいですからね」
「ああ、うん」

 お言葉に甘えてテレビをつけようとリモコンに手を伸ばしたが、テレビ横のチェストに飾ってある写真立てが目に入った。

 座ったまま移動して近くまで寄ると、家族写真だということがわかる。洋風の一軒屋の玄関先で撮られた集合写真。スーツ姿の、今より少しだけ若い塩見くんと、お父さんとお母さん。そしてもうひとりの女性は、おそらくお姉さんだろう。