「僕と付き合ってくれませんか? 食べもので苦労はさせませんよ」

 一語一語言い聞かせるように、丁寧な口調で塩見くんが告げた。

「え……っ?」

 私はぽかんとしたまま、塩見くんの言葉の意味を考えていた。

 付き合ってほしい? 塩見くんと? それはつまり、塩見くんが私のことを好きってこと?
 そんな、まさか。

 振られない可能性も、一割くらいはあるかもしれないと望みを持っていたけれど、まさか塩見くんのほうから告白されるなんて思ってもみなかった。

「きっかけはいちごミルクだったけれど、そういう一面を知っていくたびに、好きになっていったんです」
「いちごミルク……?」

 社員旅行のときにいちごミルクを買ってもらって、なにか大事なことを忘れているような気がした。

 そして夏バテをしたとき、どうしてここまでしてくれるのかと尋ねた私に、塩見くんはこう答えた。『会社の先輩に飲み物をおごってもらったことがきっかけ』だと。

「わ、私、思い出したかも。大事なこと……」

 そのふたつが今の今になってやっと、頭の中でつながる。

「私、餃子の日よりも前に、塩見くんに出会ってる……」

 震える声でそう伝えると、塩見くんはさびしそうな、でもどこか安心したような微笑みを見せた。

「やっと思い出してくれたんですね」