「それって、赤ワインだったりします?」
「え? ううん、カクテルだけど……」
「それならよかった。せっかく持ってきていただいたのに申し訳ないんですが、カクテルを飲むのは少し待っていてもらえますか?」
「うん、いいけど……。どうして?」
「それはまだ秘密です」

 塩見くんはいたずらっぽく微笑んで、私は『秘密』という言葉に少しドキッとする。

「チーズとバゲットはこのまま食べてもおいしいですけど、ちょっと工夫してみますね。座って待っていてください」

 テーブルに向かうと、そこはクリスマスらしくセッティングがされていた。

「わあ、素敵」

 中央には、ソリに乗ったサンタが閉じ込められたスノードームと、アロマキャンドル。赤と緑のランチョンマットの上には、ナイフとフォークが置いてある。
 キャンドルがあるから、間接照明だけつけていたのか。そしてクリスマスツリーではなくスノードームというのが塩見くんらしい。

「先輩、お待たせしました」

 塩見くんは、湯気をたてるマグカップを持ってきた。私の前に置かれたそれは、オレンジとシナモンスティック、スターアニスの浮いた不思議な飲み物だった。スパイスの香りがして、ボルドーをさらに煮詰めたような色をしている。一見、サングリアのようだけど……。