「女性ひとりで飲んでいて絡まれたんですよね。だったらふたりで飲んだほうがいいじゃないですか」

 大げさに反応してしまったけれど、そういう意味だったのかと納得する。彼にとっては人助けみたいなもので、特に大きな意味はないのだろう。

「そ、そうね。外で飲みたくなったらお願いするかも……」
「はい。お誘い、待ってます」

 でも、少しだけ期待してしまう。こんなふうに言ってもらえるなんて、『憧れの先輩』や『気の置けない飲み友達』よりは親しい位置にいるのかなって。

 私たちは結局、カウンター席のある、小料理屋ふうの居酒屋に腰を落ち着けることになった。

「ここ、大将が渋くてかっこいいわね」
「ほんとですね、古い日本映画の俳優さんみたいで」

 紺色の板前服を着たロマンスグレーの店主は、いかにもおいしいおつまみを出してくれそうな雰囲気がある。

「塩見くんって、昔の映画を観るの?」
「父が好きだったんです。白黒時代の日本映画とか、外国映画も。ほかにも、単館上映のマイナー映画とか、自主製作映画も好きな人だったので、よく一緒に観てました。サブカル好きだったんだと思います」

 家族写真で見る限りでは、ステレオタイプの『いいご家庭』という感じの塩見家だったのに、実はサブカル好きだとは。