「ここだけじゃないし、あのお客さまだけじゃないですよ。全国のいろんな場所で、先輩の企画したコフレは女性を幸せにしているんです。先輩は本当に、すごい人です」

 横を歩く塩見くんは、清々しい瞳でまっすぐ前を見ている。急に火照った頬を、十二月の冷たい風が撫でて、通り過ぎていった。

「私だけの力じゃないわ。お客さまが雑誌を見て買いに来てくれるのも、塩見くんたち営業ががんばってくれているからだし。だから……、いつもありがとう」

 雑踏の中を歩きながらだから、照れずに言えたのかもしれない。塩見くんはまぶしそうに目を細めて「いいえ、こちらこそ」と返してくれた。

 駅が目の前に見えてきて、つかの間の邂逅も終わりを告げる。なんだか、このまま帰るのが名残惜しい気持ちになっていた。今だったら普通に話せるのだから、もう少し一緒にいたい。

「先輩、今日の夕飯はどうするつもりですか?」

 塩見くんは駅の改札前で、ぴたりと立ち止まって私を振り返った。

「うーん。どうしようか、悩んでいるところなんだけど……」
「だったら、これから飲みに行きませんか? 外で一緒に飲んだことって、なかったですよね」